フリースタイルAQUOSというテレビを使っています。
2011年、東北大震災の混乱が続く中、アナログ放送が終了し、日本中でテレビの買い替えが進みました。家電メーカーは大繁盛で、亀山ブランドという宣伝文句で大々的に液晶テレビを売りまくったシャープは、買い替え需要が収まり、次なる販売戦略を求められていました。その独自の目のつけどころにより芯が交換できる鉛筆、つまりシャープペンシル以来、ユニークな商品開発により日本を代表する家電メーカーとして盤石な地位を得ていたシャープが、高機能や高画質だけを追い求めるのではない、新時代のテレビ視聴スタイルを提案したのがこちらの製品です。
チューナー分離型による自由なテレビ視聴スタイル
チューナー部分と分離され、WiFi通信により映像を映し出すモニター部分は、家の中で気軽に持ち運ぶことができ、アンテナ線の接続に拘束されることはなく、気ままにテレビ視聴を楽しむことが可能です。うちのは違いますがバッテリーが搭載されているモデルもあり、コンセントの場所も気にする必要がなくなります。ご家庭の庭にテーブルと椅子でもあろうものなら気候のよい季節には、屋外でのテレビ視聴も楽しめます。
うちでは上の写真のように、テレビを見るときにはテーブルの上に置き、普段は部屋の隅に片付けています。シーンに応じてテーブル上を自由に使うことができるわけです。
最近の大型化したテレビは、つけていない時でも存在感が大きく、部屋の壁の一面を専有し、その黒い画面は威圧感をもたらします。フリースタイルAQUOSはその時々の状況に応じて、場所を選ばずに使えて、いらない時はじゃまをしません。例えば床に寝転がりながら、枕元に設置して視聴することもできます。
ノートパソコンやタブレットとの違いは?
フリースタイルAQUOSは、当時普及が始まったタブレット端末から着想を得ている部分があると思います。YouTube動画などを手元のタブレットで視聴しながらリビングで時間を過ごすスタイルも最近では多く見られるようになってきました。また、置き場所を自由に選べる端末としてはノートパソコンが考えられます。WiFiとこれらのモバイル端末の普及、およびインターネットで動画を見ることの定着により、自由な動画視聴スタイルが広がってきています。
しかし、テレビを見るとなるとタブレットやノートパソコンのみでは苦しいものがあります。まずはテレビチューナーをどうするのかという問題があります。USBスティック型のチューナーもありますが、その場合でも、アンテナ線の接続が課題になります。
画面の大きさも問題です。タブレットやノートパソコンは手持ちするか、ごく近くにおいて使うことが前提であるのに対して、テレビは離れた場所から複数人で視聴することが一般的です。テレビ番組というものは、モニターに没入して見るというよりは、少し離れた場所からそれほど集中することなく眺めるのを前提とした作りになっていることが多く、モニターに向かって人間が能動的に操作をするモバイル端末との相性はあまりよくありません。つまり離れた場所からリラックスして眺めるには一般的なノートパソコンやタブレットの画面は小さすぎます。
独創的なデザインのリモコン
テレビは離れた場所からリラックスして眺めるものです。操作は専用のリモコンで簡単にできる必要があります。
シャープはフリースタイルAQUOS向けにこれまでのテレビ用リモコンとは全く違うデザインのものを開発しました。これはお世辞にも使いやすものではありません。というか完全な失敗作です。
iPodから着想を得たと思われるホイールが中央にあって、これをぐるぐる回しながらチャンネルの切り替えなどができるのですが、まともな速度で反応することがないために非常に苛々します。
テンキー式の通常のリモコンに比べて劣るところはあっても勝るところは何もありません。
ちなみにリモコン上部の電源ボタンはなにかのはずみで外れてなくなってしまったため、電源を入れるときは本体の電源ボタンを押す必要があります。
フリースタイルAQUOSと過ごした五年間
フリースタイルAQUOSを使って五年が過ぎました。今の家に引っ越す前から使っているので、愛着がないわけではありません。
ちなみに更に前にはソニーのブラウン管テレビをアナログ停波まで使っていて、これは20年ともに過ごしたので、家電リサイクル法の五千円を払って廃棄するときには胸に迫るものがありました。
基本的に移動することのできなかったブラウン管テレビに比べて、食事をするときにテーブルの上にちょこんとおいてスイッチを入れる今のスタイルは、私の好みにあいます。食事が終わること今度はテーブルの手前にテレビを移動して、人間はソファーに移動してテレビの続きを見ます。簡単に場所を移動できるテレビの魅力はまだまだ健在です。
またフリースタイルAQUOSはチューナー部分にハードディスクを接続しての番組録画が可能です。もちろん最近のテレビでは当たり前のことですが20年もののブラウン管テレビにそのような機能がないのは当たり前で、私のテレビ視聴スタイルがリアルタイム型から録画型へと変化し、定着した五年間でもありました。
それでは買い替えるとしたらどうするのか
私がテレビ視聴環境に求めるものをまとめます。
- モニターはアンテナ線に拘束されず自由に移動できる
- 使わない時は部屋の隅に片付けておける
- ハードディスク録画ができる
フリースタイルAQUOSを前提としたうちの配置では、テレビを常設する場所がありません。継続して持ち運びが可能なテレビが必要です。また録画視聴型が定着したため、ハードディスク録画保存は必須です。
テレビ専用機とししての選択肢はプライベート・ビエラ
現在、フリースタイルAQUOSと同様なチューナー分離型のテレビとしてはパナソニックのプライベート・ビエラという製品があります。フリースタイルAQUOSが20インチ以上のモニタによる製品構成であったのに対して、こちらは10型から19型の製品構成で、より手元において使用するスタイルが強調されています。10型と15型は防水仕様かつバッテリー内蔵で、浴室での使用や、キッチンでの使用が念頭に置かれています。タブレット感覚で使用できるテレビと言えるでしょう。
あるいはもしそういう趣味の人がいれば、雨の日でも庭にもうけたテーブルと椅子で、テレビを視聴することもできます。
テレビ視聴スタイルの柔軟性としてはnasne
フリースタイルAQUOSが登場し、私が購入し愛用した以外には全く何のインパクトも世の中に与えることがないまま一年たった後、ソニーはPlayStationでテレビ視聴を可能にする製品としてnasneを発売しました。
nasneはその後、PlayStationとの組み合わせ以外にも対応範囲を広げ、様々なデバイスでの再生が可能になっています。これはモニタとチューナーの分離という私が求める視聴スタイルを実現するものであり、かつモニタ部分としてスマートフォン、タブレット、パソコンと、非常に柔軟な組み合わせが可能になっています。
うちでのフリースタイルAQUOSの後継としては、nasneを中心とした組み合わせが最有力候補になります。というかnasneはすでに購入済みで、最近ではフリースタイルAQUOSでのテレビ視聴も、フリースタイルAQUOSに接続したハードディスクに録画したものではなく、nasneに録画したものをDNLA経由で視聴するようになっています。録画管理をスマートフォンからできたりしてとても便利です。
ただモニタ部分についてはまだ最適な解決策が見つかっておらず、うちの食事中のテーブルには、もうしばらくの間、フリースタイルAQUOSが置かれることになるでしょう。
フリースタイルAQUOSは発売時にはそれなりにプロモーションされ、私もその宣伝文句につられて購入したものであります。ただ後継機はまったくお目見えせず、その製品コンセプトは世の中に受け入れられることがないままに終わりました。
またシャープはその後、デジタル化特需後の落ち込みから回復できず、独立企業としての存続が不可能になりました。
フリースタイルAQUOSのモニタには持ち手が付いています。これをつかんで好きな場所に持って行って使って下さいというメッセージが非常にわかりやすく表現されています。こういうメッセージとその表現がリモコンや管理画面にも行き届いていたらもっとよかったのにと思います。